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「サブラクセイションに関する一考察」 報告者:菊地 光雄 B.C.Sc.

マニュピレーション vol.17 No.4(2002.11)掲載

筆者は日常の臨床テクニックにAMCT(アクティベータ・メソッド・カイロプラクティック・テクニック)を主に使用し臨床に携っている。AMCTには独特の検査、分析、治療があり、これを臨床に用いていると、本来のサブラクセーションの姿をいくぶん垣間見ることができる。バイオメカニカルな意味合いが深まったサブラクセーションの概念を思索しながら、今回AMCTの検査、分析、治療において得たそれとは異なる相異点の一例について臨床例を呈示し考察する。 

はじめに

カイロプラクティックの哲学、科学、臨床の中心になるのはサブラクセーションである。サブラクセーションはカイロプラクティック原理のなかでも議論の中心になってきた概念の一つである。このサブラクセーションを改善することがカイロプラクターの使命である。(少なくとも筆者はそう思っている。)
この使命と言うべきカイロプラクティックの臨床上避けて通ることの出来ないサブラクセーションに対し、バイオメカニカルな方法で行う検査、分析、治療は非常にむずかしく、また限られた臨床時間のなかでサブラクセーションを評価し、決定し、治療を行うことになるため、まずこの一連の流れでつまずくことがあり苦労する。特に手による直接的なアジャストが禁忌症となる場合や制限を加えることが必要な場合には、判断に迷うことがある。
ここで紹介する症例報告は、手による直接的なアジャストメントが明らかに禁忌あるいは制限を加えなければならない脊椎カリエスの手術後の癒合椎に対して、AMCTを使用して検査、分析、治療した1症例である。この症例をとおして、AMCTを使用した検査、分析、治療とバイオメカニカルな検査、分析、治療を対比したときに生じたサブラクセーションの捉え方の相違点について、私見を含めて考察してみたい。

 

サブラクセーションに対する理解

サブラクセーションの定義は「隣接関節構造の正常な動力学的、解剖学的、そして生理学的関係の変調である。」(ACA)とされている。簡単に言えば関節の可動域が減少し、骨の変移が生じることで生理学的変調をきたすことである。
Bryner(1989)によると、「カイロプラクティック、オステオパシー、理学療法、医学関係の27の教科書を調査したところ、膝関節のマニピュレーションの指標として頻度が高い順に、・関節の遊びの異常、フィクセーション、癒着、組織の緊張、・ミスアライメント、変位、突出、・圧痛、腫脹」の順であった。また、Jell,Bogduk,Marsland(1988)は「頚椎関節突起の痛み及び機能障害の位置を特定する徒手診断テクニックの精度だけでなく、この問題についても調査した。触診の評価尺度に選ばれたのは・エンドフィールドの異常、・運動に対する異常な抵抗、・触診部の疼痛の三つであった。」と述べている。
現在でも上に述べた定義を主体に検査・分析してサブラクセーションを決定し、治療を行う一つの材料として臨床を行っているカイロプラクターは多いはずである。筆者も1年前まではこのバイオメカニカルな検査、分析を行っていた。検査、分析結果に確信が持てないときはAKの筋力検査を併用したりしたが、筆者の浅い知識、技術の未熟さも手伝って評価もさまざまであり、苦労したものである。 

 

客観性の高いAMCTの検査・分析法

筆者がAMCTを学んで臨床で使い始めて1年が過ぎた。使用しはじめたころは、アイソレーションテストの結果を半信半疑で(いや、疑いの方が多かった)確信が持てず、モーションパルペーション、AKの筋力検査などを取り入れてサブラクセーションを評価、決定、治療をしていた。しかし、時間が経つにつれてアイソレーションテストで筋肉のトーンの変化が理解できてくると、治療の成果も同時に出てきて最近では確信が持てるようになってきた。バイオメカニカル検査、分析の主観的に身体を見ることよりも、アイソレーションテストによる下肢長検査の客観的な検査、分析方法で身体を見ることの方が患者や術者の利益になり、何よりもカイロプラクティックがより科学に近づくはずであると思っている。
AMCTの検査・分析には、アイソレーションテストにより下肢長検査、さらにストレステスト、プレッシャーテストがある。これらの検査分析は丹念に椎骨をモーションパルペーションするわけでもなく、特定の動作(アイソレーションテスト)を患者に能動的に行わせて下肢長の長短の変化を見る。さらにストレステスト、プレッシャーテストで確認してサブラクセーションを決定する。
アイソレーションテストにより脊髄次元での促通を促し、該当脊髄次元の筋のトーンが高まり下肢長の変化が現れる。筋のトーンの変化は神経学的反射反応であることは間違いない。詳しいメカニズムは筆者には解からないが、AMCTを使用するたびにカイロプラクティックが「神経学」であることが再認識させられるテクニックである。さらに臨床上客観性があり、安全かつ効果的なテクニックであると筆者は考える。それは、患者の来院数が増えたことが証明している。

症例呈示

【症例】 患者 65歳 女性 無職

<主訴> 両側の頚部から左肩関節、左肩甲部にかけてのこりと疼痛および右膝関節の疼痛を訴え来院する。最近、頚部、左上肢の運動時に増発し、吐き気、頭痛が出現する。特に左肩関節の可動域の減少および運動痛、左背部の疼痛が強く出現する。
右膝関節の自発痛と歩行痛、右膝関節の屈伸不能にて来院する。特に、下り坂や階段の昇降時に増発し継続歩行不可能になる。  

<病歴> 肩こりは20数年前から症状だが、特に治療歴なし。右膝関節痛は約2年前に発症し、過去に何度か整形外科にて治療、変形性膝関節症の診断を受ける。2度ほど関節内水腫を穿刺排除する。貯留液に血液は確認されない。
25歳の頃、肺結核とT10/T11脊椎カリエスを発症し、T10及びT11椎体に左腸骨の骨移植手術をする。
て来院する。特に、下り坂や階段の昇降時に増発し継続歩行不可能になる。

図1(手術痕)

<検査>
*バイタルサイン
異常なし。深呼吸がやや浅く、最大吸気時に胸郭(第10,第11肋骨レベル)の拡張が3センチ。
*視診
胸椎下部と左腸骨稜に手術痕確認する。(図1)
*整形外科学検査
サポーテッドアダムポジション/中部胸椎部部付近に疼痛増発する。 図1(手術痕)
棘突起殴打テスト/胸椎棘突起異常なし。胸椎棘間靭帯に疼痛出現。特にT8,T9,T10,T11,T12,L1間は殴打時に鋭い疼痛が出現する。

図2(大腿直筋の緊張)

*神経学検査
胸椎レベルのデルマトーム異常なし。
*筋肉検査
両側の上部僧帽筋に圧痛あり。特に左側にトリガーポイント確認。胸椎から腰椎にかけての膀脊柱起立筋に圧痛あり。さらにT6からT12付近にかけて軽度の浮腫確認する。右腸腰筋、右大腿直筋、右大腿筋膜張筋に高度な圧痛と筋の過緊張を確認する。(図2)(図3)

図3(大腿直筋の緊張)

*可動域検査
頚椎/伸展、左回旋、右側屈減少。胸椎(上、中、下)/伸展、右側屈、左回旋減少。
左肩関節/伸展、屈曲、外転、外旋減少、軽度拘縮あり。
腰椎/右側屈、左回旋減少。
右膝関節/屈曲減少(約100度)正座不能

図4(陳旧性の肺結核)

* モーションパルペーション
C2/C3、C5/C6、T4/T5、T8/T9、L2/L3、L4/L5各分節に右前方への可動域の減少を確認する。
T10/T11分節は左、右側方、左、右回旋、屈曲、伸展の関節運動消失。

*X線検査
右肺に陳旧性の肺結核の瘢痕(図4)および脊椎カリエスの手術後の骨癒合を確認する。T10/T11分節は骨移植手術のため骨癒合(図5)が確認され、専門医にて「癒合椎」の診断を受ける。 

図5(T10/T11癒合椎)

AMCTによる検査、分析、施術

図7(ポジション2左短下肢)

ここで特記したいことは、モーションパルぺーションによる椎骨の可動域検査で消失したT10/T11においてアイソレーションテストで下肢長が反応してサブラクセーションが確認されたことである。ポジション1で左側PD(短下肢)がポジション2でさらに短下肢になり(図7)ベイシックスキャン・プロトコールにおいて「左PD側のポッシビリティ2」が確定する。「左側PDのポッシビリティ2」の公式に則り脊椎のアイソレーションテスト、アジャストを進めて行きT10/T11においてポジション1,2でさらに左短下肢が顕著に短くなり、RP(右後方)サブラクセーションが検出される。

図8 RPアジャスト後の左右差

アクティベータ治療機によりアジャストをするが、相対的には下肢長差は近づいたけれども完全に両下肢が揃わなかった。(図8) 

図9(側方、下方アジャスト後両下肢長が揃う)

続いて、T10/T11のポジション3、ポジション4検査で脊椎の上方、下方、側方を検査する。ポジション3で下方サブラクセーションが検出されポジション4では右側方が検出される。
下方及び右側方のサブラクセーションをアジャストする。アジャスト後に各ポジションで再度下肢長差が揃っているかを確認することでアジャストが完成されたか客観的に評価できる。(図9) 

図10

アジャスト後は瞬時にして神経トーンの正常化が起こり、筋のトーンが変化し筋機能も瞬時にして正常化し、症状も改善する。(図10、11)
今回の臨床例の患者もこれまでと同様、他のサブラクセーションを改善しても症状は疼痛スケールで、約50パーセントしか改善しなかったが、T10/T11の下方、右側方サブラクセーションを改善すると約90パーセント以上の症状が改善された。

図11

アジャスト後のサブラクセーションの改善と共に、瞬時にして神経トーンの正常化が起こり、筋のトーンも正常化する。(図10、11)

発生機序

臨床例の症状の発生機序を推測してみる。T10/T11の脊椎カリエス移植手術によりT10/T11分節の骨癒合が進行し、椎間板の変性や関節腔の高度な減少により椎間関節が圧縮され、この圧縮が受容器を刺激し、神経トーンの異常が反応として起こり、神経的反射反応により筋のトーンも変化し、筋の過緊張が高まる(刺激→受容器→求心性繊維→統合中枢→遠心性繊維→効果器→反応)。

また、関節を構成する筋の過緊張により関節可動域は減少し、さらに関節腔の減少が起こり関節面の摩擦抵抗が増大し、関節軟骨の変性が起こる。関節軟骨は多量の関節液を含み滲潤性に富み、その高い弾性により衝撃を緩和し、摩擦抵抗を減少させる機能を持っている。しかし関節軟骨の変性に伴い、関節軟骨の器質的変化および機能低下よって摩擦抵抗が増大し、関節可動域の減少が起こることから、関連した筋がさらに過度に緊張し、筋スパズム、トリガーポイント、炎症などが発生する。また滑液胞も過剰な刺激を受け、過剰に分泌された滑液は関節抱内に貯留する。これらの現象が長期的になれば、変性は進行し骨基質の変形がはじまる。

バイオメカニカルなモーションパルペーションで、このような関節を検査すれば可動域の減少が確認され、サブラクセーションとして捉えることができる。しかし、この場合のサブラクセーション(肩関節の可動域減少、膝関節の可動域減少)は結果であって原因ではない。
T10/T11の右側方、下方サブラクセーションが改善するまでは症状も改善しなかったことから、原因は外的な手段によって引き起こされた癒合椎であると推測できる。しかし、この癒合椎に対しての直接的なアジャストを試みる人はまずいない。アプローチは大きなリスクを考えなければならない。

発生機序の見方を変えて、筋の過剰な緊張を引き起こしている原因を探っていけば、「神経トーンの異常」が見つかるはずである。この神経トーンの異常が根本的な原因と考えることが出来る。

施術結果

3回の治療で主だった症状は改善し、疼痛スケール90%以上を示したが、4回目まではT10/T11の右側方、下方サブラクセーションが残存し、次回来院時には症状も50%位まで戻っていた。筆者のテクニックが未熟で完全に右側方、下方サブラクセーションを取りきれていないのか、あるいは他に原因が在るのかもしれない。5回、6回目以降からサブラクセーションが戻らなくなり、症状もほとんど改善した。右側方、下方サブラクセーションが改善してからは症状が戻らなくなったことは、このT10/T11の右側方、下方サブラクセーションが主だった症状を引き起こす要因であったと考えられる。現在は健康管理のため3週間に1回位の割合で通院中である。

考察

サブラクセーションの定義は、「隣接関節構造の正常な動力学的、解剖学的、そして生理学的関係の変調である」ことはすでに述べた。この定義からT10/T11の癒合椎は“隣接関節構造の正常な動力学的変調”であり、まさにサブラクセーションと判断して間違いない。しかし、バイオメカニカルな検査法・分析で行うモーションパルペーションで検出するサブラクセーションやフィクセーションの概念、すなわち「可動域の減少」や、いくつかの文献でも紹介されている「関節の遊びの異常」「エンドフィールドの異常」「運動に対する異常な抵抗」を当てはめると、癒合椎においてはこれらの現象には当てはまらず、「可動域の消失」であると言えよう。

ディバーシファイドやガンステッドなどの手による直接アジャストする治療テクニックでは、「可動域の消失」した分節へのアジャストは禁忌か制限を加えた治療になる。だが、今回の臨床例でT10/T11の右側方と下方サブラクセーションを改善するまで症状が改善しなかったことから、右側方と下方サブラクセーションを残しとくことは、患者が訴える症状はいつになっても改善しないことが考えられる。

この癒合椎に対しての直接的な手技によるアジャストは、禁忌であるがためアプローチには大きなリスクが付きまとい、治療に制限を加えた消極的な治療になるはずだ。少なくとも筆者はそうしていた。

では、筋の過剰な緊張を引き起こしている「神経トーンの異常」をサブラクセーションとして捉え、検査・分析・治療するにはどうしたらいいのか? AMCTの検査・分析はアイソレーションテスト、プレッシャーテスト、ストレステストにより下肢長の変化を客観的に評価するとともに、サブラクセーションを分析し、アクティベータ器によりアジャストするテクニックである。これらの検査・分析は、伸張反射によって神経トーンの異常、すなわち「神経機能異常」をサブラクセーションとして捉えることによって治療を可能にすることができる。

多くのカイロプラクターは日常の臨床ではこの「可動域の減少」をアジャストの対象として探し求めているはずである。D.D.パーマーの著作にも「毒も同じように作用して神経と筋肉を収縮させるので、骨のズレを引き起こす」と書いてある。可動域の減少は結果である。可動域の減少を追い求めていると、カイロプラクティックの本質を見失うことになる。可動域の減少を引き起こす裏には、必ず隠された「神経機能の異常」があるはずだ。この「神経機能の異常」を見極める必要がある。

おわりに

恥ずかしい話だが、この症例報告のなかで「神経云々・・・・」と述べているが、筆者は神経学のことは全くと言っていいほど理解していない。筆者が教育を受けた神経学は、難解な嫌気がする神経学であり、臨床では使えない(使えなくしたのは筆者の頭かもしれない)。

AMCTとの出会いにより、増田D.Cが唱えている臨床で使える「カイロプラクティック神経学」に興味を持ち始めた。日常の臨床をとおしてAMCTにより検査・分析し、アクティベータ器によって高速かつ最小の振幅でアジャスト治療を行うことで、瞬時にして反応が現れるのはまさに「神経的反射」以外なにものでもないと考える。臨床で毎日このような現象を目の当りにしては、カイロプラクティック神経学に興味を持たないのがおかしい。カイロプラクティック神経学を学ぶことによって、カイロプラクティックはさらに奥が深まり、そこにカイロプラクティックの本質が見えることで、臨床での治療が幅広いものになり、ひいては患者の利益になることは間違いない。時間が許せば是非受講したい。

AMCTいや、カイロプラクティック自体がまだまだ未解決の部分が多く科学的に検証されるには時間がかかるだろうが、臨床を通して得た現場からの臨床報告もデーターとして積み重ねていけば科学になり、カイロプラクティックの未解決な部分の解明に貢献できるはずである。この臨床報告もその積み重ねになることを期待する。

参考文献

●マニピュレーションvol.17 No.1 エンタプライズ
●アクティベータメソッド・カイロプラクティック・テクニック エンタプライズ
翻訳 保井志之/他
●カイロプラクティック・サブラクセーション エンタプライズ M,ガッターマン原著  
監訳 竹谷内宏明
●エッセンシャル・カイロプラクティック・哲学 科学新聞社 バージルV.ストラング著  
増田裕 訳
●神経生理学 KINPODO Robert F Schmidt著 内薗耕二 佐藤昭夫 金虎 訳
●脊髄反射の生理(カイロプラクティック総覧) エンタプライズ 佐藤昭夫

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